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特集

タグでは括れない切り口で束ねた読み物。収録順にも意味があるので、上から読んでほしいクマ。

ひとりでは、届かないFEATURE

ひとりでは、届かない

もうひとり来ないと、完成しない広告。

広告はふつう、ひとりに向かって話しかける。ここに集めた7本は、もうひとり来ないと完成しないクマ。コカ・コーラの自販機はコイン投入口が3.5メートルの高さにあって、肩車してもらわないと手が届かない。Duracellのバス停は2人で手をつなぐとようやく温風が出る。この2本は装置そのものに鍵がかかっている。あとの5本は、ひとりの行為は終わるのに、集まらないと形にならない。 並べ方は、必要な「もうひとり」が誰なのかで組んだ。路上で居合わせた人、ネット越しに集まった顔を知らない人、塀の内側の受刑者、別の神に祈る人、敵。3本目のOrconと4本目のGloboはどちらもネット越しの他人で、どちらが遠いかは決めていない。後半の3本は、起きたことが映像の外にも残った。ベルギーの法務大臣は刑務所のeCyclingを全施設に広げると決め、献血された血はイスラエルとパレスチナ双方の病院に届いた。最後の一本で、何が交換されたのかを見てほしいクマ。

耳のほうが、先に気づくFEATURE

耳のほうが、先に気づく

4つの子音で名乗った広告から、1秒だけの出題まで。

広告は目で見るものだと思っているうちに、耳のほうが先に反応していることがあるクマ。ここに集めた5本は、その音が何のために鳴っているかで並べた。はじめの2本では、ブランド名そのものが音になっている。イタリアのFRATELLI BRANCA DISTILLERIEは氷のグラスが砕ける「Brrr」で名前と氷を入れる飲み方を同時に伝え、Mountain Dewは「DEW」という一声から銃声もエンジン音も作った。続く2本は、聞き手に自分の耳を疑わせる。MAXELLは空耳の歌詞をボードに掲げ、Specsaversは空耳版の『Never Gonna Give You Up』をブランド名を伏せたまま流した。最後のBudweiserは、名曲の出だしを1秒だけ置いて「分かる?」と問いかける広告クマ。年代は1975年から2025年まで飛ぶので、古い順には並んでいない。

つくったのは広告、残ったのは仕組みFEATURE

つくったのは広告、残ったのは仕組み

タクシー運転手の大学から、杖で読む歩道まで

広告は、どこかにあるものを指し示す仕事だ。ところが指し示す先がないとき、会社が自分でそれをつくってしまうことがある。コロンビアのシボレーはタクシー運転手が通える無料の大学を職業訓練機関SENAと一緒に立ち上げ、同じ国のTIGO-UNEは街角の公衆電話を貯金の窓口にしたクマ。Boost Mobileは携帯ショップを投票日の公式投票所にして、Telenorは3日かかっていた出生登録を10分で終わるアプリに置き換えた。 残ったものの寿命も長い。Whirlpoolが学校に置いた洗濯機は17校から154校へ広がり、SOL CEMENTが敷いた歩道タイルはデザインも特許も無料で公開されている。 並べ方は年代順にした。2011年のタクシー運転手の大学から、2024年リマの歩道まで、13年ぶんが並ぶクマ。

「初」と書かれた一本ばかりFEATURE

「初」と書かれた一本ばかり

1954年の第1号から2022年まで、グランプリの記録を順に読む

広告賞の記録には、「初」と書き添えられた一本がある。この特集はその一本だけを集めて、1954年から2022年まで出てきた順に並べたクマ。 先頭だけは単位が違う。ヴェネチアで開かれた最初の広告フィルムフェスティバルで187本の頂点に立った歯磨き粉のストップモーションで、これは賞そのものの第1号グランプリにあたる。残る7本には、イギリス初やポルトガル初といった国名つきの注釈がついているクマ。西アフリカの農家に預金を歌いかけたカリプソのアニメーションもあれば、新聞社がリアリティ番組までつくって国のリーダーを募った企画もある。最後に置いたのは2022年、ファシスト時代の憲法を青鉛筆のイラストで塗りつぶしてベストセラーになった本だ。

同じ空、同じ一行に戻るまでFEATURE

同じ空、同じ一行に戻るまで

20年、27年、27年、33年、50年以上。

Nikeがスーパーボウルの広告枠に戻るまで27年、Cathay Pacificが閉港した啓徳の空をもう一度飛ぶまでも27年かかったクマ。この5本は、前にやった場所や人のところへ何年も経ってから戻った広告を、戻るまでの年数が短い順に並べた。先頭は20年前の家族写真を同じ場所、同じ角度で撮り直したライオン。27年が二本続いたあと、1988年のCMと同じ俳優がもう一度手を振るJR東海が来る。最後は1971年に書かれた四つの言葉を生んだ本人のところまで行ったL'Oréalで、50年以上とこの中でいちばん長いクマ。

広告の真ん中に、数字がひとつFEATURE

広告の真ん中に、数字がひとつ

6.95ドル、14,650ポンド、18秒、9日と6時間。

コピーを一行も読まないうちに、数字がひとつ目に入って話が通じてしまうことがあるクマ。ここに集めた6本は、広告の表に数字を立てて、そこから企画を組み立てている。関心は、その数字がどう置かれたかに絞ってある。前半は金額だ。6.95ドルのライター、14,650ポンドのゴルフGTIと続く。三本目の$1.05は、上院議員がNRAから受け取った献金を州の全学生数で割った値で、パークランドの生徒たちがオレンジの値札に書いて身に着けた。後半は金額以外の数字になる。冷凍コンテナで100年続いた-18℃を-15℃へ動かす話のあとに、18秒、そして9日と6時間が来る。最後のRuaviejaでは、70万人以上が自分の残り時間を実際に計算しているクマ。

食べ方は、広告が決めてきたFEATURE

食べ方は、広告が決めてきた

味の説明をやめた広告は、飲み方や食べ方の話をはじめる

氷が砕ける音、ストローで吸い上げる最後の一滴、30秒で食べきる挑戦、粉で汚れた指、一本3.5メートルの麺。古い順に読むと、商品の味の説明を脇に置いて、口に運ぶまでの手つきを前に出した広告が5本並ぶクマ。1975年のイタリアから2025年のインドネシアまで、商品も国もばらばらだけれど、どれも「こう飲む」「こう食べる」をまず見せている。売上が戻ったり、TikTokで動画が6万本つくられたりといった成果も、その手つきのまわりで起きたことクマ。並び順は発表年の古い順で、それ以上の理屈は置いていない。

架空の人物が、働きはじめたFEATURE

架空の人物が、働きはじめた

存在しない5人に、現実の側が応答してしまった。

広告のキャラクターは、たいてい画面の中で仕事を終える。ここに集めた5人は、画面の外で相手をされたクマ。学生は留守電にメッセージを残し、詐欺師は40分も電話を切らなかった。オランダでは翌年の教育カリキュラムに入り、エジプトでは国家がテロ容疑で捜査した。最後の1人が集めた1,000人の名前は、Interpolに渡っている。並びは、相手をしたのが誰か順。学生からはじめて、国際的な捜査機関で終わるクマ。

ゲームの中に、店を出したFEATURE

ゲームの中に、店を出した

他人が没入している世界に、どう入っていくか

ゲームは長いあいだ広告にとって入りにくい場所だった。プレイヤーは没入していて、割り込めば嫌われる。この8本は、その壁の破り方が変わっていく記録として読める。おまけとしてゲームを作る、ゲームの中に商品を自然に置く、ゲームのルールに嫌がらせのように介入する、弱小クラブを世界の主役に変える、ライブ会場や結婚式の会場として使う。外から中へ、そして最後の一本は、ゲームの世界から出ていく話になっているクマ。

企画の中身が、書類そのものだったFEATURE

企画の中身が、書類そのものだった

決算報告からレジのレシートまで、決まった書式を本体に据えた5本

企画の中身が、書類そのものだったことがある。ここに並ぶ5本は、決算報告書やレジのレシートといった決まった書式を、そのまま企画の本体に据えた例クマ。バング&オルフセンは決算の要点をオペラアンサンブルに解釈させ、一枚の楽曲に仕上げて届けた。プレミアム版の反応率は37%。オーランド銀行は毎月のカード利用明細に、いくら地球に負荷をかけたかを示す気候プロファイルを載せた。後半に出てくるのは、農家と結ぶ法的拘束力のある契約書、子どもが描いた結婚式の招待状、ミルクやおむつを買ったときのレシート。書式ごとに、誰がどこで手に取るかが変わるクマ。並びに理屈はなく、記事の年の古い順で2010年から2025年まで。

金がない、を企画のど真ん中に置いたFEATURE

金がない、を企画のど真ん中に置いた

足りないことを、そのまま素材にした6本

予算が足りないとき、表現は縮む。はずだった。ここに並ぶ6本は、金がない状態を最初から企画の材料にしているクマ。350億円の借金で破産した街が「NO MONEY BUT LOVE」と名乗り、制作費ゼロのラジオCMを競合他社の客が電話で吹き込む。削られている場所は一本ずつ違っていて、欠乏の深さで順位をつけられるものでもない。だから並びは発表年順にした。2009年の夕張から、2026年のカンヌまでクマ。最後に来るのは、広告のために撮られた映像を持たないまま118カ国で報じられた一本。

無かった言葉を、つくった人たちFEATURE

無かった言葉を、つくった人たち

コピーを書く前に、まず記法から設計した5本。

この5本は、コピーを書く前の段階でつまずいている。ヒンディー語の文字とローマ字を音の共通性で融合させたフォント、サポテコ語に存在しなかった女性器官の名前を集めた本、地球を3メートル四方に割って3つの単語を割り当てた住所、8つの目の動きで50通りを伝える体系、色と動きで話者を描き分ける字幕。使える言葉や記法が無い場所で、それを自分たちで作ってしまった仕事クマ。 欠け方の深さで順位をつける軸は立たなかったので、発表の古い順に並べた。2012年のフォントから2025年の字幕まで、13年ぶんの並びクマ。

卵は割れなかった ── 実演の系譜、60年FEATURE

卵は割れなかった ── 実演の系譜、60年

証明してみせる。この芸だけが、なぜ古びないのか

性能を言葉で語らず、目の前で証明してみせる。この芸は1960年代からほとんど形を変えていない。だから60年分を時系列で並べた。卵、ボール、揺り椅子、七日間の雨、そして二台のトラックの間に立つ男。順に見ると、変わったのは証明の派手さと中継の技術だけで、骨組みは驚くほど同じだと分かる。ただし最後の一本で、証明する相手が人間ではなくなる。そこまで来て初めて、この古い芸がまだ終わっていない理由が見えてくる。

法律に手を出した広告FEATURE

法律に手を出した広告

条文を破る、抜ける、書き換える。射程距離の順に8本

キャンペーンが、法律の側に手を伸ばした8本。並びは、届いた距離の順だ。入口はひとりの子どもの困りごとに弁護士をつけるところから。そこから告発、皮肉、税制の抜け穴の利用と進み、やがて自ら法を破って裁判を引き受ける企業が出てくる。終盤は法の空白である海へ出て、条文そのものを書き換えさせ、最後は自然物に保護を与えるところまで行く。広告が社会を「変えた」と言うとき、どこまでを指せるのか。その物差しを作るための特集クマ。

1秒から、5億年までFEATURE

1秒から、5億年まで

広告が測った時間の長さだけで、10本を並べてみた

扱っている時間の長さ、それだけを基準に並べた10本。1秒から始めて、18秒、3分、30分、9日、80日、10年、12年、37年、そして5億年で終わる。短い側では、時間は制約であり、緊張であり、勝負そのものだ。長い側へ進むにつれ、時間は素材になり、記録になり、最後は笑いになる。同じ「尺」という一語が、これほど違う意味を持つ。上から順に読んでほしい。読み終える頃には、30秒のCMが妙に短く感じるはずクマ。

そこにあったものが、媒体になったFEATURE

そこにあったものが、媒体になった

チョークから紙幣まで。買わずに手に入れたメディア11選

新しい媒体を買うのではなく、すでに人の手の中にあるものを媒体に作り替えた11本。前半は、チョーク、傘袋、教科書、レシート、パン生地といった手のひらサイズの物体から始まる。後半は、歩道、電話ボックス、切符、紙幣へと、社会のインフラそのものへ広がっていく。これは節約の話ではない。誰の生活動線にすでに割り込めているかを見抜いた企画だけが、ここに並んでいる。順に読むと、媒体という言葉の輪郭がじわじわ崩れていく。

商品が、映っていないFEATURE

商品が、映っていない

見せないという選択が、いちばん強い主張になるまで

広告は商品を見せるもの、という前提をわざと外した9本を、時系列で並べた。入口は「まだ見せられない」という事情から始まる。次に、見せなくても伝わる状態が生まれる。やがてブランドは、商品どころか自分の記号そのものを削り、潰し、剥がしはじめる。順に読むと、「映さない」が消極的な逃げから、最も強い宣言へ反転していくのが分かるクマ。最後の一本で、ラベルは一枚も残らない。