CADBURY|GORILLA|2008|イギリス

90秒間、チョコレートが一切映らない / CADBURY「GORILLA」

ゴリラがドラムを叩く。ただそれだけ。90秒間、商品は映らない。セリフもない。Phil Collinsの「In the Air Tonight」が流れ、ゴリラが首を鳴らし、スティックを握り、あの伝説的なドラムソロを叩きはじめる。それだけで世界中が笑顔になったクマ。

背景・課題

2006年、Cadburyはサルモネラ菌混入事故で2000万ポンドのリコールを余儀なくされ、食品基準庁への報告遅れで100万ポンドの罰金を科された。ブランドへの信頼は地に落ち、売上は低迷していた。新任マーケティングディレクターのPhil Rumbolに与えられたブリーフは「Get the love back(愛を取り戻せ)」。Fallon Londonは、従来のミドルクラス・ミドルエイジ向け広告から脱却し、より広い層に向けた「エンターテインメント作品」を提案した。商品ではなく、Cadburyのチョコレートを食べたときの「気分の良さ」そのものを伝えること。それがこのキャンペーンの出発点だったクマ。

ねらい・インサイト

Juan Cabralがこのアイデアを思いついたのは、同僚との「史上最高のドラムソロは何か」という議論の最中だった。「Phil Collinsだ。彼の演奏は動物的で、まるでゴリラがドラムを叩いているようだ」と言った瞬間、イメージが焼きついた。その夜、Cabralはホテルの部屋で一晩かけて脚本を書き上げた。一週間後、Cadburyが代理店を訪れた。Rumbolがスクリプトを聞いた瞬間、「なぜかは完全には理解できなかったけど、やらなければならないと直感した」と語っている。Fallonの提案は、Cadburyを「チョコレートメーカー」から「幸福のプロデューサー」へと再定義することだった。広告そのものが、商品を食べるのと同じくらい楽しい体験であるべき、というインサイトがコアにあったクマ。

アイデア

90秒間のワンカット。紫の背景。ドラムキットの前に座るゴリラ。Phil Collinsの「In the Air Tonight」が流れ、60秒間、ゴリラはただ集中して待つ。そして、あの有名なドラムソロが始まる。ゴリラが情熱的に、完璧なタイミングで叩きはじめる。商品は最後の3秒間だけ、「A glass and a half full of joy」というコピーとともにロゴが現れるだけ。ゴリラスーツは、1995年の映画『コンゴ』で使用されたStan Winston Studio製の最高級アニマトロニクスを使用。演じたのは同作に出演していたGaron Michael。彼はドラム経験がなかったため、スーツ内のモニターを見ながら何度も練習を重ねた。Cabralが求めたのは「ドキュメンタリーのようなリアリティ」。CGではなく、実在感のある演技。ゴリラの金歯、パープルの背景、そして「Glass and a Half Full Productions」というクレジット。Cadburyと分かる手がかりは、それだけクマ。

展開・成果

2007年8月31日、『Big Brother』最終回で初回放送。YouTubeに投稿された動画は1週間で50万回再生、11月までに600万回を突破した。Cadbury Dairy Milkの売上は9%上昇。Phil Collinsの「In the Air Tonight」は、リリースから25年後にチャートに返り咲き、ニュージーランドでは1位を記録。Phil Collins本人からRumbolに感謝の手紙が届いたほどクマ。2008年、Cannes Lions Film部門でGrand Prixを受賞(Microsoft Halo 3と同時受賞)。D&AD Black & Yellow Pencils、Clio Gold、Epica d'Or、British Television Advertising Awards Goldなど、数々の賞を総なめにした。パロディが300本以上制作され、Wonderbra、BBC Children in Need、The Mighty Booshなどがオマージュ版を発表。2018年のMarketing Week調査では、放送から10年以上経っても76%の人々が「Cadburyの広告」と記憶しており、24%が「お気に入りの広告」に選んだ。総キャンペーン費用は620万ポンドと推定されているクマ。

余韻

「商品を見せない広告」を社内で通すために、Rumbolは4ヶ月も説得し続けた。「普通の3倍長く、チョコレートが映らず、メッセージもない広告を作りたい。キャリア史上、最も説得が難しかった」と彼は振り返る。でも、Cabralは諦めなかった。承認が下りる前から、ゴリラスーツを探し、俳優を見つけ、ドラムを教えていた。この「確信」が、すべてを動かした。今でも、Cabralは週に一度は誰かに「ゴリラの人ですよね?」と声をかけられるらしい。銀行で口座を開くときにも言われたそうクマ。Rumbolのもとには「次のGorilla を作ってくれ」というリクエストが今も届くという。でも、これは再現できない。背水の陣だったからこそ、誰もが「やるしかない」と信じた。その純度が、この広告の強度になったクマ。ゴリラは、待っていた。ずっとこの瞬間を待っていた。そしてクマたちも、この広告を待っていたクマ。

▎クレジット

広告主
CADBURY
代理店
Fallon London
制作
Blink Productions
CD
Juan Cabral
監督
Juan CabralPhil Rumbol
音楽
Phil Collins - In the Air Tonight
Cast
Garon Michael
受賞
Cannes Grand Prix (2008)

▎タグ

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