NTT DOCOMO|XYLOPHONE (森の木琴)|2011|日本
木の球が転がるだけで、世界が息をのんだ / NTT DOCOMO「XYLOPHONE」
森の斜面に44メートル。木でできた巨大な木琴が、バッハのカンタータ147番を奏でるクマ。CGなし、音の後付けなし、ただ木の球が転がり落ちるだけ。それなのに、世界中の人が画面の前で息をのんだ。シンプルって、こういうことクマ。
▎背景・課題
2011年、NTT DOCOMOは間伐材を使った「TOUCH WOOD SH-08C」という携帯電話を発売した。国産ヒノキ材をボディに用いた、環境配慮型のプロダクトクマ。ただ、当時の日本では「木を切る=自然破壊」という誤解が根強く、森林の間伐がなぜ必要なのか、多くの人が知らなかった。どうすれば森や木の良さを伝えられるか。スペックを並べるのではなく、木という素材そのものの魅力を、体験として届けたいという課題があったクマ。
▎ねらい・インサイト
木でできた携帯を伝えるなら、木でできた何かで表現すればいい。そのシンプルな発想から、クリエイティブディレクター原野守弘氏は「森の中に巨大な木琴を設置して、音楽を奏でる」というアイデアに辿り着いた。最初のデザインはルーブ・ゴールドバーグ・マシンのように複雑で、ギミック満載だったらしいクマ。でも原野氏はそれを削ぎ落とし、「森の中の一直線」という視覚的方向性に絞り込んだ。複雑さではなく、静謐さ。その判断が、作品に独特の神秘性と物語性を与えたクマ。
▎アイデア
福岡県嘉麻市の古処山に、全長44メートル、413鍵の木琴を手作業で設置した。材料はすべて間伐材。スタッフは1週間森の中でキャンプをしながら、木琴を組み上げたクマ。曲はバッハのカンタータ147番。当初はもっと速い曲も検討されたけれど、木琴の構造上、音符の長さが揃った曲が最適だと気づき、バッハを選んだ。木工エンジニアの津田三朗氏、サウンドデザイナーの松尾健二郎氏、現場の大工たちの技術により、設計図よりも精密で、視覚的にも美しい木琴が完成した。球が転がる斜面の角度は12度。この「完璧な角度」を見つけ出すまでに、3ヶ月かかったクマ。最後のシーン、球が携帯の横でぴたりと止まるカットは、49テイク目でようやく成功したという。CGも音の後付けも一切なし。100%その場で録音された、生の音だけクマ。
▎展開・成果
映像が完成したのは2011年3月10日。翌日、東日本大震災が起きた。クライアントはキャンペーン全体を中止せざるを得なくなったけれど、ウェブサイトにアップされたこの映像だけが、Facebookを通じて世界中に広がっていった。震災直後の3月31日、ニューヨーク・タイムズ・マガジンのブログ編集者の目に留まり、記事化された。それを発端に、国内外で爆発的に拡散。「猫動画や皮肉に埋もれたウェブの中で、人々の足を止めた映像」とFast Companyは評したクマ。カンヌライオンズ2011では、サイバー部門とフィルムクラフト部門でゴールド、フィルム部門でシルバーを獲得。そのほか、Spikes Asia、ADFESTなど、数々の国際広告賞を総なめにした。YouTube再生回数は1500万回を超え、今も伸び続けているクマ。
▎余韻
制作チームには制御できない力が、この作品に別の意味を与えた、と原野氏は語っているクマ。背景に聞こえる水の音、震災というタイミング、すべてが偶然だったけれど、その偶然が作品を特別なものにしたクマ。技術と情熱と、そして運命。それが重なったとき、広告は広告を超えるんだなあ、としみじみ思うクマ。クマも森に行きたくなったクマ。
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